かといって否定的な事ばかり考えていても面白くないですから、今回は明るい話題を。
最近読んで面白かった二冊の本、「オオゲツヒメと倭国創生」、「里山資本主義」を紹介、感想を書かせて頂きます。
二冊共、いつもカバンに忍ばせて持ち歩き、熱心に読んでいたので、表紙がボロボロです。
一冊目のオオゲツヒメと倭国創生の作者林博章先生は、地元徳島県鳴門市にある高校の歴史の先生をされている方です。
地元では知る人ぞ知る忌部族研究の第一人者です。
忌部族というのは古代豪族の一つであり、地元徳島ととても縁の深い豪族です。
徳島の一宮である大麻比古神社も忌部系の神社ですし、そのものズバリ忌部神社というのも徳島市にあります。他にも徳島の古い神社はほとんど何らかの形で忌部に関連しているようです。
忌部族はあの藤原氏の元氏である中臣氏のライバルであり、天皇家に祭祀官として仕えていた氏族だったのですが、次第に中臣氏に追い落とされ、地方に追われていったというのが従来の説だったのですが、(忌部氏は徳島だけでなく、全国各地にその名前を残しているのです。)林先生は忌部氏の本貫地は元々阿波であり、ここから全国に向かい、開拓を行い、様々な技術の伝道者となったのだ。とあらゆる観点から証明しようとされています。
それが真実なのかどうか僕には専門的知識がないのでわかりません。
しかし、僕が林先生に注目するのは、その行動力ゆえなのです。
実は僕がエコツアー事業所をしてみたいと思ったのは、林先生が数年前、吉野川市合併3周年記念イベントで忌部バスツアーを主催され、それに参加した事がきっかけでした。
忌部にゆかりの神社を廻ったのですが、建物や外観は決して立派な神社ではありません。
しかし、そんな平凡な村の氏神さんのような神社が林先生がストーリー性を持たせる事で、一気に輝き出したのです。
これを現場で体験してしまったから、ぼくは旅の価値がぐるりと反転してしまつたのです。
林先生はこのツアーで自らガイドをしておられ、走りまわりながらよく通る大きな声でガイドされてたのが印象的でした。
この本はそんな林先生の忌部シリーズ第四弾でこのブログにもよく登場する徳島県名西郡神山町の事が書かれた本です。
まずタイトルに入っているオオゲツヒメは阿波の国つ神、化身です。
四国は男神2人女神2人でちょうど対になっており、カップル二組になっております。
オオゲツヒメは食料、五穀の神様。古事記に登場し、スサノオノミコトに切り殺される事により、
身体中から食物や繊維を産み出すのです。
本書では神山町にある上一宮大粟神社に注目、そこに祀られたオオゲツヒメが何故阿波の化身なのか?を縦糸に謎を解き明かして行きます。
読み進める間、目からウロコな事がたくさんあったのですが、まず山奥、山上の集落を見ると現代の平地に住む我々からしてみれば、何故そんな不便な所にわざわざ住むんだろう?と思ってしまいますが、実は山というのは資源と食料の宝庫であり、通信手段も交通の便も昔は平地より上だったということです。山はいつも豊かな実りをもたらしました。
弥生時代終末期は異常気象で作物が不作になり、だからこそ気象の変化に強い粟が珍重されたという話しも古代人の実感が伝わるリアルな話だと思いました。
飢饉の時代の辛い記憶とそれを救ってくれた粟への感謝が信仰に変わっていった事が、そう言われれば、大粟神社の名前にも込められているのかもしれません。
神山という土地は土壌的にも大変肥沃な大地であり、様々な偶然と自然の変化により、与えられた素晴らしい農業適地である事を知り、そんな土地に再び人が集まって来つつある事はむしろ当然ではないかと思うのです。
この本は歴史書の体裁を取っていますが、実は作者が一番伝えたい事は農業が日本人の精神の奥深くに多大な影響を与えており、この国の文化や神話や歴史も農業を中心として組み立てられているという事実ではないかと思います。
そしてそんな大事なものが壊されて行くのを、黙って見ているわけにはいかないという林先生の思いが伝わってきます。 後編へ続く あき書